賃貸物件の残置物とは?意味・処分方法・費用・法的注意点を徹底解説

アパートの退去後に、家具や家電、生活ゴミなどの“モノ”がそのまま残されていた。
そんな「残置物(ざんちぶつ)」の問題に悩む大家さんや管理会社が近年増えています。
「勝手に処分しても大丈夫なのか?」「誰に連絡すればいいのか分からない」「業者に依頼するにも、どこまで片付けるべき?」といった不安や疑問を感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、アパートに残された残置物に関する基礎知識から、注意点、費用の目安までをわかりやすく解説します。
1.残置物とは?定義と代表的なケース
残置物は、「ざんちぶつ」と呼び、建物の中や敷地内に前の所有者や使用者が残した家具や家電、生活用品などを指します。を指します。
具体的な残置物の例
- 大型家具(タンス、ベッド、ソファなど)
- 家電製品(冷蔵庫、洗濯機、テレビなど)
- キッチン用品や日用品
- 衣類や本、趣味の品
- 仏壇や位牌、アルバムなどの思い出の品
これらはすべて「誰かの所有物」であるため、処分には注意が必要です。
■「設備」との違いに注意
残置物とよく混同されがちなのが「設備」です。設備とは、貸主(オーナー)が物件に備え付けている備品類のことエアコンや給湯器、キッチン周りの装備などが該当し、契約書にも設備一覧として明記されているのが一般的です。
ここで、残置物と設備の違いをわかりやすくまとめると、以下のようになります。
【比較表】残置物と設備の違い
項目 | 残置物 | 設備 |
---|---|---|
所有権の所在 | 退去した元入居者 | オーナー(貸主) |
契約書の記載 | 一般的に記載されていないことが多い | 設備一覧として契約書に明記される |
処分の可否 | 勝手に処分すると所有権の侵害になる恐れあり | 貸主の判断で撤去や交換ができる |
故障時の責任 | 原則として貸主に修理義務はない | 修理・交換の対応は貸主の責任となる |
この違いを理解しておかないと、「残置物だと思って処分したら実は設備だった」「設備と思っていたが、元入居者の所有物だった」というトラブルに発展することも。
退去時のチェックや契約書の確認を怠らず、慎重な判断が必要です。
2.残置物が発生しやすいケースとは
残置物は、入居者が退去する際にスムーズに持ち出されないことで発生しますが、特に以下のようなケースでは頻発しやすく、大家さんや管理会社の対応が求められます。
① 夜逃げ・家賃滞納による突然の退去
もっとも多いのが、賃料の滞納や金銭トラブルを抱えた入居者が、ある日突然いなくなる「夜逃げ」のケースです。
家電や布団、衣類などの私物がそのまま室内に残され、鍵も返却されないままの状態で放置されます。
このような状況では、残置物の所有者に連絡が取れず、処分の判断に苦慮するケースが多く見られます。
② 孤独死・室内での死亡
近年、高齢者の単身入居が増えており、室内での孤独死が社会問題となっています。
このようなケースでは、室内に家具・家電だけでなく、故人の思い出の品や仏壇などがそのまま残されてしまいます。
相続人と連絡がつかない、あるいは「相続放棄」された場合には、残置物の処分がさらに困難になります。
③ 高齢者の施設入所・認知症による所在不明
本人が突然入院したり、認知症の影響で所在が分からなくなった場合も、室内には大量の生活用品が残されます。
所有者の意思確認ができないまま時間が経過し、結果として「動かせない残置物」として扱われてしまうこともあります。
④ 明け渡し後の粗大ゴミや不用品放置
鍵の返却や契約上の明け渡しは完了しているにもかかわらず、室内に大量の粗大ゴミや家具、不要品が残されたままのケースもあります。
「処分してもいいと思っていた」「急いでいたので置いてきた」といった借主の一方的な判断が原因で、貸主側の負担が急増することになります。
3. 残置物の具体例と処分にかかる費用相場
実際に残置物として放置されるものには、さまざまな種類があります。
単なるゴミだけでなく、大型家具や家電、処分しづらい遺品や宗教的な品も多く、処分の手間・費用・感情的負担が重くのしかかることも。
ここでは、代表的な残置物とその処分費用の目安をまとめて紹介します。
よくある残置物の種類と特徴
● 冷蔵庫・洗濯機・テレビなどの家電製品
大きく重い上にリサイクル法の対象となっており、家電リサイクル料金が発生します。
年式が古いものは買い取り不可なことも多く、廃棄処分となるケースがほとんどです。
- 処分費用の目安:1点あたり3,000円~5,000円程度(収集運搬費込み)
● タンス・ベッド・ソファなどの大型家具
実家や高齢者宅などに多く残されている婚礼ダンスや和箪笥などは、搬出・解体に手間がかかります。エレベーターのない物件では追加費用が発生する場合も。
- 処分費用の目安:1点あたり2,000円~8,000円程度
● 布団・カーペットなどの寝具類
かさばりやすく、衛生状態によっては処理を断られるケースもあります。長期間放置された寝具はダニやカビの温床になっていることも。
- 処分費用の目安:1枚500円~1,500円程度
● アルバム・写真・手紙などの思い出の品
「捨てるに捨てられない」という感情的な負担が伴うものです。仕分けに時間がかかるため、遠方の家族などが対応する際は日数や人員の確保が必要になります。
- 専門の遺品整理業者に依頼するケースが多く、仕分け+供養+処分で5万円~が相場。
● 仏壇・位牌・神棚などの宗教関連品
粗大ゴミとして処分するのではなく、寺院や神社での「お焚き上げ」や供養が望ましいとされています。費用や対応方法は地域や宗派によって異なります。
- 供養費用の目安:1体あたり5,000円~30,000円程度
【一覧表】残置物の種類別|処分費用の目安(参考)
残置物の種類 | 処分費用(目安) | 備考 |
---|---|---|
冷蔵庫・洗濯機など家電 | 3,000~5,000円/点 | リサイクル法対象/回収運搬費別途あり |
タンス・ソファなど家具 | 2,000~8,000円/点 | サイズ・階段搬出の有無で金額変動 |
布団・カーペット | 500~1,500円/枚 | 長期放置や汚損状態によっては別途費用 |
アルバム・遺品類 | 50,000円~(一式) | 遺品整理業者に依頼/仕分け・供養含む |
仏壇・位牌・神棚 | 5,000~30,000円/体 | 寺院や専門業者による供養・お焚き上げが一般的 |
業者に依頼する場合の費用感
残置物の量が多い場合は、不用品回収業者や遺品整理業者に依頼するのが一般的です。
間取り別に処分費用の相場を簡単に示すと、以下のようになります。
間取り | 残置物の量例 | 費用の目安(税込) |
---|---|---|
1R・1K | 家具少量+家電+布団など | 約30,000~70,000円 |
2DK~2LDK | 家具多数+思い出の品など | 約100,000~200,000円 |
一軒家 | 仏壇・庭物含む大量家財 | 約200,000~400,000円 |
4.残置物の処分は勝手にできない?知っておくべき法的リスク
賃貸物件に残された家財が「ただのゴミのように見える」からといって、安易に処分してしまうのは非常に危険です。
というのも、残置物には法的な「所有権」が残っている可能性が高く、無断で処分すると損害賠償などのトラブルにつながるおそれがあるからです。
残置物は“まだ誰かの所有物”である可能性が高い
残置物とはいえ、それが元入居者やその相続人の所有物であれば、法律的には保護されており、貸主(大家)や管理会社が勝手に捨てることはできません。
とくに次のような行為は、「自力救済の禁止」に抵触する可能性があります。
法的手続きを経ずに、自分で問題を解決しようとすることを禁止する原則。
賃貸物件に残された荷物を、正当な手続きなしで撤去・処分することも、これに該当します。
実際に起こったトラブル事例
事例①:夜逃げ入居者の私物を無断で処分 → 損害賠償請求
家賃滞納の末、夜逃げした入居者の部屋に残された家具や衣類を、貸主が独断で処分。
数ヶ月後、元入居者から「高額なカメラなどもあった。弁償してほしい」と連絡が入り、訴訟に発展した。
事例②:入居時の家電の修理費でもめた
入居時に「使っていいよ」と貸主から渡された冷蔵庫が故障。
入居者は「設備」だと思い修理を依頼したが、貸主は「前の入居者の残置物で修理義務はない」と主張し、費用負担でもめた。
国土交通省のガイドラインでも注意喚起されている
国土交通省も、残置物処理について以下のように明確に注意を促しています。
賃貸借が終了し、賃借人等による任意の明渡が完了しない間に、賃貸物件内の賃借
引用:残置物の処理等に関するモデル契約条項の解説等
人の動産類を物件内から運び出し、処分等した場合には、自力救済禁止の法理に抵触
し、賃借人に対する不法行為責任が生じる。したがって、賃借人と連絡を取り、引き
取りを要請するか、残置物の処分等につき同意を得ることが基本となる。
賃借人が死亡した場合、残置物についても相続の対象となるため、相続人を確認し、
引き取りを求めるか、処分の同意を得ることが必要となる。
「もう退去したし、残ってるのはゴミだろう」と判断して独断で処分することは、法的リスクを伴う判断であることを理解しておく必要があります。
例外的に処分できるケースもある
以下のような場合は、貸主が処分を行うことが可能になります。
✔ 借主や相続人が明確に「処分してよい」と同意した場合
→ 書面で残しておくのが理想的。メールやLINEなどでも、記録に残る形にする。
✔ 契約書に「残置物は貸主が処分できる」と明記されている場合
→ 実際に処分したことを証明できるように、写真やリストの保管を推奨。
5.残置物トラブルを回避するための実践的な対策
残置物の処分は、法的リスクや感情的トラブルに発展しやすいデリケートな問題です。
だからこそ、「発生してから対応する」のではなく、あらかじめトラブルを未然に防ぐための準備が重要です。
この章では、大家さんや管理会社が押さえておくべき「6つの実践的な対策」を紹介します。
① 賃貸借契約書に「残置物の扱い」を明記しておく
もっとも重要なのは、契約書の段階で残置物の扱いをルール化しておくことです。
以下のような文言を明記しておくことで、トラブルを未然に防ぐ効果があります。
例:「退去時に残置物がある場合、貸主は借主の承諾なく処分できるものとし、処分費用は借主が負担する。」
このような取り決めが契約書にあることで、実際にトラブルが起きた際にも交渉や説明がしやすくなります。
② 退去後はまず借主または相続人に「通知」する
残置物があった場合、すぐに処分せず、まずは借主や相続人に連絡を取りましょう。
できれば「内容証明郵便」で正式に通知し、「〇日以内に引き取りをお願いします」と記録を残す形で行うのが理想的です。
【 通知内容に記載すべき項目例】
- 残置物の一覧(できれば写真付き)
- 保管期限(例:〇月〇日まで)
- それまでに連絡がなければ処分する旨の告知
③ 一定期間(2週間~1ヶ月)は保管しておく
通知後は、法的リスクを避けるためにも一定期間は残置物を保管するのが望ましいとされています。
期間の目安は2週間~1ヶ月程度が一般的。
この間に連絡がない、または引き取りの意思が確認できない場合は、次の段階へ進む判断材料となります。
④ 同意は必ず「書面や記録」に残す
借主や相続人から「処分していい」と言われた場合でも、口頭だけではなく書面やメールなどで記録を残すことが必須です。
「聞いた・言ってない」の水掛け論を防ぎ、万が一の訴訟リスクを大幅に減らせます。
📝 処分同意の例文(メール文面やLINEメッセージでもOK):
「部屋に残された私物については、〇〇様に処分をお任せします。こちらに異議はありません。」
⑤ 処分前に「写真撮影・リスト作成」で証拠を残す
残置物を実際に処分する前には、部屋の状態を写真に残し、何をどう処分したかのリストを作成しておくのがベストです。
これにより、後から「高価な物があったはず」「処分した物を返してほしい」と言われた場合にも、事実関係を明確にできます。
⑥ 法的に複雑な場合は「専門家」に相談する
孤独死・相続放棄・連絡不能など、複雑なケースが絡む残置物問題は、個人の判断だけで対応するのはリスクが大きくなります。
- 弁護士
- 司法書士
- 遺品整理士
- 不用品処理業者(残置物処理に詳しい業者)
などの専門家に早めに相談することで、安全かつスムーズに解決できる可能性が高まります。
6.まとめ
残置物の処分におけるトラブルの多くは、「処分のルールが決まっていなかった」「証拠が残っていなかった」ことに起因します。
だからこそ、契約時からの備え・丁寧な通知・証拠の記録がとても重要です。
トラブルが発生する前に、次のようなチェックリストを活用して対策を進めておくと安心です。
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